姿勢を貫く

深蒸し茶にもよく合っているのは、まさにみごとの一語に尽きる。

そのため常時あるのは粽だけ。

それも予約注文に限る。

姿勢を貫く道のひとつだ。

粽粽は中国で始まり伝えられたもので、その起源や伝説もさまざまであるが、日本でもこく古くから作られており、端午の節句ばかりでなく、皐月の季節菓子ともなっている。

吉野葛を練った水仙粽は笹の葉の表で巻き、羊葵粽は裏巻きにして、二種類とも藺草で縛る。

(川端道喜)

轡・手綱
馬の口に含ませて手綱をつけて馬を御する用具が轡である。

扇面の形に轡形を打ち出した打ち物。

ほかに円や四角の中に十字形を出したものもある。

取り合わせは轡と切り離せない手綱。

紅白の有平をねじってひと結びしたもの。

紫と自の色合いのものも端午の節句には合う。

(亀屋伊織)

粽ひとすじ

卯の花時雨
卯の花は五月から六月にかけて白い花が盛りになるもので、時鳥の声とともに初夏の訪れを知らせてくれる。

薯蕷餡をそぼろにして型抜きした菓子。

(越後屋若狭)

卯の花巻き
緑色のこなしの上に白雪樵を載せ、胡桃をおいて巻き込んだもの。

卯の花は五月に盛んに咲く白い花で、『万葉集』にも数多く詠まれている。

(二条駿河屋)

深蒸し茶にもよく合うお菓子のあるお店紹介。

川端道喜(京都)
粽の歴史は道喜の歴史といわれるほど、川端道喜は綜を抜きにしては語れない店である。

粽を創案してから四世紀半、その極上の優雅な風味は全国に名高い。

時代に流されず、陰に犠牲者も出さず、という店の方針は、伝統の味を伝えるためには「最低食べていければよし、余分にもうけない」ことに潔く甘んじる。

伝えることの使命感と誇りなくして、いかにこの姿勢が守られるであろうか。

ちょっとずれているけど

深蒸し茶もこのお菓子の季節あたりが一番おいしいような気がする。


深見草
深見草とは牡丹の別称。

中国で花の王ともいわれるようにその華麗さには目を奪われる。

大輪の花びらを練り切りでかたどっている。

中は小豆のこし餡。

(さ〉ま)

麦手餅
五月晴れの大空に鯉のぼりがなびき、つんつんと天に向かって実った麦の穗が、薫風にそよぐ。

麦秋の景色には稲穂の波とは違った若々しさがある。

麦刈りのころ、畦などで昼食の代用やお茶請けとして食べる大ぶりの餅が元となっている。

餅皮に豆の粉をまぶし、中はこし餡。

(松屋常盤)


唐衣
謡曲の『杜若』を織り込んだもの。

「唐衣、きつつなれにし妻しあれば、はるばる来ぬる旅をぞ思う、と…」とある。

しっとりとした外郎皮で餡を包んでいる。

この皮の包み方にちょっと趣向を凝らして花の形に畳んでおり、その色合いとともに杜若の姿をよく表している。

(末富)

さわやかなお菓子

岩根躑躅
桜も散り、山の青葉が目にしみるころに邸燭は美しく咲き誇る。

和泉式部の歌や『源氏物語』にも岩根躑躅は見られ、季節の代表花として古くから愛されてきた。

黄緑の金団の山に、紅色を取り入れた、さえざえとした色合い。

(松屋常盤)

落とし文
時鳥の落とし文とか、鶯の落とし文といって木の葉を巻いた形をしている。

木の上で巻いて落ちる葉は葉先から巻き込むので軸が外になり、秋の落葉と区別する。

(末富)

五月雨
梅雨はとかく暗く、うっとうしいイメージがあるが、降り続く雨足の流れを小豆銘の筋で表し、表面を清澄な錦玉で覆った姿には落ち着きが感じられる。

(越後屋若狭)

菖蒲饅頭
菖蒲は五月の節句と結ばれて栄えている花。

薯蕷饅頭仕立てで菖蒲の図柄を染めている。

紫と緑の彩りの入れ方に趣があり、蒸し菓子でありながら涼しげである。

深蒸し茶と一緒にいただいた。

(虎屋)

季節の移り変わり

鶏卵素麺
江戸時代に唐船で南蛮人から伝習したものの一種で、博多や東京の店でも作られている。

鶴屋八幡のものは卵の香りが抹茶の香りをそがないように改良されている。

(鶴屋八幡)

桜餅
享保二年(一七一七)に江戸向島長命寺の門番が土手の桜の落葉を集めて塩漬けにしておき、桜餅を作って売り始めたという。

一個に桜の葉二枚を使っている。

(長命寺さくら餅)

深蒸し茶を飲みながら、少し思った事。

青空と青葉の皐月は初風炉のとき。

潔さ、すがすがしさが身上の月。

男の節句の菓子、綜は端午の席には欠かせない。

麦手餅、唐衣なども。

さわやかに凛々しく盛ってみる。

雨、紫陽花、水煙る木立、だから水無月の菓子は、

紫陽花に夏木立。

またいっそ、この季節のままに、氷室や葛饅頭。

その半透明の被膜が好ましい。

全国の銘菓たち

おぼろ月
小麦粉、水飴、砂糖を混ぜ合わせて落とし焼きにしたもの。

周囲に狐色がついたところをタイミングよく取り上げた、趣向に過ぎない、茶味のある尾張一宮の菓子。

(近江屋老舗)

菜種の里
白雪樵の押し物で、黄色のところどころに白米の花を散らしたもの。

「山川」と同様に石昧公好みのもので品のよい松江の菓子。

切らずに手で割って盛りたいもの。

(三英堂)

言問団子
「名にしおはばいざ言問はん都鳥我が思ふ人はありやなしやと」在原業平の有名な歌からできたもので、淡泊な風味のよい団子。

江戸時代からある東京名菓。

(言問団子)

舌鼓
良質の防長米で作った羽二重求肥で白餡を包んだ餅で、上品な美しい肌に舌鼓の文字を焼き印で押してある。

改良を重ねて現在の品質が完成されたという山口の名菓。

お土産でもらったが、深蒸し茶と一緒に食べた。

(山陰堂)

蝶や花

蕨・稚児桜
緑色の州浜製で、春の野に伸び出た蕨をかたどったもの。

取り合わせは小指の頭ほどの丸い有平を紅白の捻じに染め分けて中をくぼませた、銘のごとくかわいいもの。

(亀谷伊織)

桜・蝶々
桜の花には種類が多く、一重、八重と各種あるように、干菓子も打ち物や片栗細工など変化がある。

蝶結びは白の有平で、ひらひらと春空に舞う蝶が想像される。

(亀屋伊織)

胡蝶・卯の花
結び弥生に続いて蝶は型や素材を変えて出される。

卯の花結びは、季節的に少し早いが、白い卯の花を連想したもの。

緑と臼の有平糖で仕上げている。

(亀屋伊織)

うすべに
種煎餅に砂糖をすりつけて二枚の間に紅色の砂糖蜜をはさんである。

ほんのりと薄紅が表面に透けて見え、春らしい感じを与える。

茶味のある上品なもの。

実は深蒸し茶にも合う。

(末富)

干菓子と深蒸し茶

戦前と戦後しばらくはさまざまな菓子を見本箱に入れ、得意先を回って注文を受けるのを常としていたそうであるが現在は生菓子だけはやはり注文。

干菓子は常時店にそろえてある。

この店で楽しみたいのは、凝った細工が美しい有平糖や生砂糖。

甘さをおさえ、淡い色を基調にして、自然を中心にしたものを具体的にではなく、しかもそれらしく表す手仕事の技術は伝統そのもの。

数多く作れないのも無理ない。


深蒸し茶によく合う春の干菓子。

秋の吹き寄せと同じように、春は野辺の花々や土筆、また桜、胡蝶などを、美しく、楽しく盛り合わせる。

桜と筏の打ち物と、すみれ、たんぽぽ、土筆などの有平を取り合わせたもの。

器は、若菜摘みの手付籠などを使って盛り入れてもかわいく春らしい。

(亀広保)

京都に行ったら…

春の川
山あいの雪も溶けて春の川は満々と水をたたえている。

そっと手をつければまだ水は冷たい。

こなし製の二つ折りに餡をはさみ、千筋を入れて流れを表すようぼかしに染めている。

この菓子は、春の水と呼ぶこともある。

(末富)

おぼろ饅頭
薯蕷饅頭の薄い外皮を取り去って、春の朧月に見たてている。

ふわふわとした海綿のような感じになった表面が、春の暖かさを感じさせる。

薄紅色にするのも春らしい。

(虎屋)

花筏
水面に散って流れ続く花を筏に見たてていう、名の響きも美しいもの。

紅に染めた求肥皮で桜の焼き印を散らしている。

筏形に組んだ盛りつけも一興であろう。

(川端道喜)


亀広保(京都)
亀広保は、大正四年(一九一五)、亀末広から分かれてあらたに構えられた店である。

京都に行ったら、家にある深蒸し茶に合いそうなものをよく買って帰る。

春らんまん

花見団子
薯蕷饅頭を渦の形にまとめ、うっすらと水色に染めぼかしたもの。

ぬるんだ水がそよぐ風などに揺れて静かに輪を広げていく穏やかな光景が想像される。

(末富)

花の水
薯蕷饅頭を渦の形にまとめ、うっすらと水色に染めぼかしたもの。

ぬるんだ水がそよぐ風などに揺れて静かに輪を広げていく穏やかな光景が想像される。

(末富)

花くれない
緑色と薄紅色の染め分けに仕上げた黒餉入りの金団で、紅餅種になっている。

花は紅、柳は緑ということばから四月に好まれ、春の美しい景色を思わせる。

(鶴屋吉信)

嵯峨の春
嵯峨野は春の桜、秋の紅葉とその美しい風情を愛でられる。

嵐山の桜、大沢の池の桜と遠目には雲と見まがうほどの美しさである。

薄紅の道明寺皮に仕立て、氷餅の粉をまぶしている。

春の色合いが、ほのかにうかがわれる。

(川端道喜)

どれもたいがいは、茶道に使われる和菓子だが、深蒸し茶にも十分よく合う気がする。

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